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DDS班 DDSとは… ドラッグデリバリーシステム(Drug delivery system ; DDS)とは、薬物の体内での動きを精密にコントロールすることによって、最適な治療効果を得ることを目的とした技術です。我々のグループでは独自のエマルション技術を利用した新しいDDS用薬物キャリアーの開発を行っています。 エマルション 昔から、仲の悪いものを「水と油のようだ」というように、本来、水と油は混ざらない液体です。ところが、界面活性剤を加えてかき混ぜると水と油のどちらか一方が細かい粒子になって、他方の液体中に分散した白濁溶液ができます。これが、エマルションです。エマルションは、食品、医薬品、化粧品と様々な分野で利用されています。分散している粒子が油滴の場合Oil-in-Water(O/W)エマルション、水滴の場合をWater-in-Oil(W/O)エマルションといいます。また、O/Wエマルションの油滴中にさらに水滴が分散したWater-in-Oil-in-Water(W/O/W)エマルションも多く利用されています。 |
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本研究室における研究 ■ Solid-in-Oil(S/O)化技術について… 本研究室では、上記のW/Oエマルションをさらに発展させたSolid-in-Oil(S/O)を開発し、DDSへの応用を試みてきました(Fig.1)。ここでS/Oとは、Fig.1のようにW/Oエマルションから内水相を取り除いた状態を指し、本手法によって“今まで水にしか溶けないと考えられてきた親水性薬物を、油中に溶かすことが可能となります”。これまでにも親水性薬物のW/Oエマルション製剤などは存在しましたが、粒子径の大きさ(数mm)や、安定性の悪さなどの問題が存在しました。このようなW/Oエマルションに比べて、S/Oは内水相が存在しないため、W/Oエマルションよりもはるかに小さい粒子径(数百nm)で、数ヶ月以上の安定性をもつ製剤を得ることができます。さらに我々の研究によって、その適用範囲はジクロフェナクナトリウムのような小分子の薬物だけではなく、インスリンやヒト成長ホルモンなどのタンパク質や、核酸からなるssDNAやプラスミドDNAであっても、S/O化技術によって油中に溶かせることが明らかとなっています。 |
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Fig.2に黄色の蛍光物質でラベル化したインスリンを油に溶かしたときの写真を示しますが、親水性の物質であるインスリンは何の手も加えずに油中に添加しただけでは、Fig.2(左)のように沈澱してしまいます。しかしS/O化技術によって界面活性剤で被覆すると、Fig.2(右)のように均一に油中に分散することができます。このときのインスリン含有S/Oの粒子径は200〜300nmで、沈殿も生じずに、この粒径を保ったまま数ヶ月間、均一に油中に分散することができることが分かっています。現在の我々の技術では、他のタンパク質やDNAに関してもほぼ同様のS/Oを作ることに成功しています。またこのとき用いた界面活性剤や油は全て医薬品添加剤として承認されたものであり、本系をそのまま実用化することが可能である点でも画期的な成果であるといえます。 |
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本研究室ではこれまでにS/O化技術を利用して、注射でしか投与できなかったような医薬品を、飲み薬(経口デリバリー)や塗り薬(経皮デリバリー)に変えるための基礎的研究を行ってきました。“水にしか溶けなかったものを油中に溶かせる”という、製剤開発において大変重要な特徴をもつこのS/O化技術によって、従来の常識では考えられなかったような、既往の薬の新しい投与ルートを開拓することが可能であると考えています。 ■ 経口デリバリーへの応用 @ インスリンの経口デリバリー 糖尿病治療薬であるインスリンは一般的に注射で投与されています。これは注射することで、効果的に血糖値を下げることができるからです。しかし、注射での投与は患者に苦痛を与えます。もし、口から飲むことができれば、服用が楽になります。ところが、インスリンのようなタンパク質は、胃や腸で分解されやすいといった欠点があります。親水性薬物のキャリアーとして上記のW/O/Wエマルションがありますが、W/O/Wエマルションは内水滴の存在により、微小な粒子調製が困難です。そこで我々はS/O化技術を応用してO/Wエマルションの油滴の中に分散させた、“Solid-in-Oil-in-Water(S/O/W)エマルション”を開発しました(Fig.3)。ここで内油相として植物油を用いることで、小腸に存在する酵素によって分解され、小腸で内封されたインスリンが放出できると考えられます。 |
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Fig.3 S/O/Wの概念図。 |
![]() Fig.4 蛍光ラベル化インスリンのS/O/Wエマルション中への内封の様子。(左)微分干渉像、(右)蛍光顕微鏡像1。 ![]() |
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Fig.4が蛍光物質でラベル化したインスリン封入S/O/Wエマルションの顕微鏡像ですが、Fig.4(左)でS/O/Wエマルションが存在しているのと同じ位置に、Fig.4(右)で緑色の蛍光が見られることから、S/O/Wエマルション内にインスリンが封入されていることが分かります。Fig.5は糖尿病誘導マウスに、インスリンの水溶液とS/O/W製剤を経口投与したときの血糖値の変化を示しています(in vivo)。Fig.5の青線のように単なるインスリンの水溶液をマウスに飲ませても、タンパク質であるインスリンは胃や腸で分解されやすいため血糖値の変化はありませんが、S/O/W製剤では分解が抑制され、Fig.5の赤線のように血糖値を低下させることができました。 A ジクロフェナクナトリウム(DFNa)の経口デリバリー ジクロフェナクナトリウム(DFNa)はFig.6のような化学構造をもつ水溶性の非ステロイド性抗炎症剤で、解熱・抗炎・鎮痛などの効果をもたらします。DFNaの薬効は非ステロイド性抗炎症剤の中でも極めて高く、手術・抜歯後の鎮痛やリウマチ性疾患の治療など多様な用途へ応用することが期待されていますが、胃粘膜障害(胃潰瘍)をはじめとする重大な副作用のため、経口製剤化は達成されていませんでした。そこで本研究室ではS/O化技術を用いて、胃粘膜障害を回避したDFNaの経口製剤化に挑戦しました。 |
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![]() Fig.6 DFNaの化学構造。 ![]() |
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マウスにDFNaの水溶液とS/O製剤を経口投与すると、3時間後の血中移行性はTable.1のように同程度でした。しかしながらDFNaの水溶液を経口投与した場合は、Fig.7(A)に示すように、胃粘膜層が剥離し、粘膜下層が剥離していたことから胃潰瘍の発症が見られました。一方でS/O製剤を経口投与した場合は、Fig.7(B)のように胃粘膜障害の発症は見られませんでした。よってDFNaはS/O化技術によって、副作用である胃潰瘍を回避した経口デリバリーが可能となったと言えます。 |
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■ タンパク質の経皮デリバリーへの応用 塗り薬として皮膚から薬物を投与する経皮デリバリーは、注射に代わる薬物の投与方法として大変魅力的です。経皮デリバリーの利点は、注射に比べて安全かつ投与が簡便であることはもちろん、経口投与と比べても、消化管や肝臓を通過せずに皮膚から薬物を直接血流に乗せることができる点で優れています。 このように経皮デリバリーは薬物の最適な投与ルートとして期待されてきましたが、未だに製剤として実用化できた例は少ないのが現状です。それは皮膚はもともと外界から体を守るためのバリアーとして機能しているため、薬物を通過させることが困難であるからです。さらに皮膚表面は疎水性であるという特徴から、親水性高分子のタンパク質を経皮デリバリーすることは不可能だとされてきました。そこで本研究室では、“水にしか溶けなかったものを油中に溶かせる”というS/O化技術の特徴を生かし、現在までにほとんど実現されていないタンパク質の経皮デリバリーに挑戦しました。 Fig.8に緑色の蛍光色素でラベル化したインスリン(分子量:6000)が豚の皮膚内部へ浸透していく様子を示します。この結果から、蛍光ラベル化インスリンは、その水溶液では48時間後でも全く浸透できていませんが(Fig.8(F))、S/O化技術で油中に溶かすと、Fig.8(A)〜(E)のように皮膚中へ浸透できるということが分かりました。これはタンパク質を油中に溶かすことによって、疎水性の高い角質層へタンパク質が浸透しやすくなったためだと考えられます。さらに我々はインスリンよりも分子量の大きなタンパク質についても研究を行っており、現在、分子量40000までのタンパク質がS/O化技術によって皮膚内部へ浸透できるということを確認しています。また最新の研究によって、皮膚内部に浸透したタンパク質は活性を保持しており、S/O化技術ではタンパク質を生きた状態で経皮デリバリーできるということも明らかとなっています。
共同研究 後藤研は産官学連携および異分野研究者間の共同研究を積極的に推進しております。特にDDSに関連する研究は、創薬ベンチャーであるASPION(株)と連携し、早期の実用化を目指しています。後藤研ならびにASPION(株)と共同研究ご希望の方は後藤またはASPION(株)までご連絡ください。 |
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研究成果
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