経皮免疫とは
経皮免疫とは,抗原を経皮的に投与することにより、抗原特異的な獲得免疫を誘導し、感染症の予防やアレルギー疾患の治療を行うことであり、安全性や簡便性に優れております。しかしながら,皮膚最外層である角層は,疎水性で,非常に高いバリア機能を有しているため,一般に疎水性分子もしくは分子量500 Da以下の分子でなければ,角層を透過することができません。したがって,タンパク質やペプチドなどの抗原は,親水性かつ高分子量であるため,経皮投与してもほとんど皮膚に吸収されず,十分な効果が得られないといったことが課題となっています。
Solid-in-Oil (S/O) 化技術
親水性抗原の皮膚浸透性を向上させるために,当研究室では,独自のエマルション化技術であるSolid-in-Oil (S/O) 化技術を開発しました。S/O化技術とは、親水性薬物を疎水性界面活性剤で被覆することで,油中にナノ分散させる技術のことです。これまでに,タンパク質やペプチドなどの抗原をS/O化することで,皮膚浸透性を大幅に向上させることに成功しています。さらに、S/O製剤を経皮投与することで,抗原特異的な獲得免疫の誘導に成功しました。
Y. Tahara, S. Honda, N. Kamiya, H. Piao, A. Hirata, E. Hayakawa, T. Fujii and M. Goto ; J. Controlled Release, 131, 14 (2008)
Y. Tahara, K. Namatsu, N. Kamiya, M. Hagimori, S. Kamiya, M. Arakawa and M. Goto ; Chem. Commun., 46, 9200 (2010)
M. Kitaoka, K. Imamura, Y. Hirakawa, Y. Tahara, N. Kamiya and M. Goto ; Int. J. Pharm., 458, 334 (2013)
経皮がんワクチン,経皮花粉症ワクチンの開発
免疫療法が期待されている疾患には,がんなどの難治性疾患や,花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー疾患があります。そこで,S/O化製剤を用いてこれらの疾患に対する免疫治療が可能であるかどうかの検討を行っています。実際に,がん抗原を用いた経皮がんワクチンや,T細胞エピトープペプチドを用いた花粉症ワクチンの開発に取り組んでいます。また,タンパク質やペプチドの皮膚浸透性を向上させるため,免疫賦活剤や経皮吸収促進ペプチド,イオン液体などの添加剤の検討も行っています。
M. Kitaoka, K. Imamura, Y. Hirakawa, Y. Tahara, N. Kamiya and M. Goto ; Med. Chem. Commun., 5, 20 (2014)
M. Kitaoka, A. Naritomi, Y. Hirakawa, N. Kamiya and M. Goto ; Pharm. Res., 32, 1486 (2015)
S. Araki, R. Wakabayashi, M. Moniruzzaman, N. Kamiya and M. Goto ; Med. Chem. Commun., 6, 2124 (2015)
Y. Hirakawa, R. Wakabayashi, A. Naritomi, M. Sakuragi, N. Kamiya and M. Goto ; Med. Chem. Commun., 6, 1387 (2015)
M. Kitaoka, Y. Shin, N. Kamiya, Y. Kawabe, M. Kamihira and M. Goto ; AAPS PharmSciTech, 16, 1418 (2015)