非水媒体中における酵素反応〜〜新規環境調和型溶媒を用いて〜〜
一般に、酵素は生体が産出する触媒であり、生体内環境である水中で機能します。ところが、Klivanovらの先駆的な研究により、酵素(特に加水分解酵素)が有機溶媒中で安定的にかつ水中では難しい合成反応を行うことが明らかになり、ここ20年の間に多くの有機溶媒中酵素反応が報告されてきました。当研究室においても、有機溶媒中において高活性を有する酵素の調製法を中心に研究を進めてきました。その結果、界面活性剤で酵素を被覆することによりリパーゼ、プロテアーゼ、酸化還元酵素が有機溶媒中において顕著な活性を示すことがわかりました。一方、近年になり有機溶媒の揮発性、毒性が問題視され、これに変わる新規非水溶媒(イオン性液体、フルオラス溶媒等)がいくつか開発され、この溶媒中における様々な化学反応(合成反応、抽出分離等)が精力的に研究されています。そこで我々は、この新規非水溶媒を新たな酵素反応場としてとらえ、新規非水溶媒中における酵素反応を検討しています。具体的には、1)どのような酵素の形態がこれら新規非水媒体中で高活性を示すか?、2)どのような酵素反応が可能か?、3)従来の有機溶媒中酵素反応と何がちがうか?、を検討しています。その結果、ポリエチレングリコールと酵素(リパーゼ)を複合化させることにより、イオン性液体(文献1,3)やフルオラス溶媒中(2)でリパーゼが高活性を示すこと、比較的エナンチオ選択的な反応を触媒すること(文献1)、また従来の有機溶媒と比して親水的なイオン性液体中の方が高い酵素活性を示すことなどが明らかになってきました。
用語解説
- イオン性液体:イオン性液体は不揮発性の室温溶融塩であり、主に有機のカチオンとアニオン(無機物の場合が多い)からなる。(図1)
- フルオラス溶媒:フッ素化した有機溶媒。最近では、パーフルオロカーボンを指すことが多い。
図1 イオン性液体
最近の研究成果
- K. Nakashima, T. Maruyama, N. Kamiya, M. Goto, Comb-shaped poly(ethylene
glycol)-modified subtilisin Carlsberg is soluble and highly active in ionic
liquids. Chem. Commun. in press.
- T. Maruyama, H. Yamamura, T. Kotani, N. Kamiya, M. Goto, Poly(ethylene
glycol)-lipase complex highly active and enantioselective in ionic liquids.
Org. Biomol. Chem., 2, 1239-1244 (2004).
- T. Maruyama, T. Kotani, H. Yamamura, N. Kamiya, M. Goto, Poly(ethylene
glycol)-lipase complexes catalytically-active in fluorous solvents. Org.
Biomol. Chem. 2, 524-527 (2004).
- T. Maruyama, S. Nagasawa, M. Goto, Polyethylene glycol-Lipase Complex Catalytically Active in Ionic Liquids, Biotechnol. Lett. 24, 1341-1345 (2002)