<はじめに>翻訳後修飾酵素によるバイオコンジュゲーション

 生体内で精巧緻密な機能を発現するタンパク質へ、更に必要とされる機能を付与するタンパク質-機能性物質の複合化技術は、生化学、生物医学、細胞生理学などの分野へ広く利用されています。このような多機能性タンパク質は、有機化学的手法による化学修飾法やタグ-リガンドの反応を利用したアフィニティーラベル法、酵素反応を利用した酵素修飾法によって調製されます。しかしながら、化学修飾法では、タンパク質中に同じ官能基が複数存在するため、導入部位の制御が困難であり、アフィニティーラベル法では、非共有結合的な導入のため安定な修飾が困難となります。そこで、温和な条件下で厳密な基質特異性により、タンパク質の機能を損なうことなく部位特異的な修飾が可能となる酵素修飾法に着目しました。用いる酵素として、翻訳後修飾反応を触媒する酵素の一種である微生物由来トランスグルタミナーゼ (MTG) を選択しました。MTGはタンパク質表面に存在する特定のLys (K) 残基とGln (Q) 残基を架橋することができます (Figure 1)。

   
Figure 1

 MTGは、遺伝子工学的手法により導入するタグの導入部位についての制限がなく、更にタグの長さも比較的短くてよいため、幅広いタンパク質に対して応用可能な汎用性の高い手法になると考えられます。そこで当グループでは、MTGを用いた部位特異的な結合形成による新規バイオコンジュゲーション技術の確立と、それを用いるバイオコンジュゲートの調製ならびにその応用を検討しています。


<応用1>タンパク質固定化技術への応用

 MTGの部位特異的な反応を活かすことで、担体への固定化が可能となります。例えば、b-カゼイン (MTGが認識するKを豊富に含む) によって被覆された基板に対しては、Q-tagが導入された組換えタンパク質を効率的に固定化できます (Figure 2)。また、表面を一級アミンで修飾したガラス基板に対しても、同様の操作にて、タンパク質の固定化が達成されます。このようにMTGの部位特異的修飾能を利用することによって、対象となるタンパク質の機能を充分に保持したままでの固定化が実現され、まさに、「protein friendly」 な固定化技術と言えます。


Figure 2


<応用2>タンパク質ー核酸複合化技術への応用

 遺伝情報の担い手である核酸 (DNA, RNA) は、塩基配列特異的に二本鎖を形成する事ができ、非常に優れたナノマテリアルとして捉えることができます。また、この核酸をタンパク質に導入することによって、両者の機能を兼ね備えた「タンパク質-核酸複合体」を新たな機能性素子として創出できますが、この際にも、MTGが触媒する架橋化反応は非常に魅力的なツールとなります。例えば、MTGのQ側の基質となるペプチド性小分子化合物 (Z-QG) を末端に付加したZ-QG DNAと、K側のペプチドタグを導入したK-tag proteinを、MTGによって複合化することで、いずれの機能も損なうことなくハイブリッド化が達成されます (Figure 3)。このようにして得られた「タンパク質-核酸複合体」は、遺伝子診断技術、センシング・イメージング技術、固定化技術などをはじめ、広範な分野での応用が期待されます。


Figure 3

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