逆ミセル中におけるタンパク質のリフォールディング
近年、遺伝子組換え技術の発展により、様々なタンパク質の大量生産が可能となった。しかしながら、大腸菌などを宿主とする異種生物タンパク質発現系を用いて得られるタンパク質は、インクルージョンボディ(inclusion body, 封入体)と呼ばれる不溶で不活性な凝集体(変性タンパク質)として回収されることが多い。この変性状態のタンパク質が生物活性を回復するためには、リフォールディング(refolding)操作によるタンパク質本来の高次構造の再生が必要となる。
通常、タンパク質のリフォールディング操作は、高濃度の変性剤(尿素や塩酸グアニジンなど)により可溶化された変性タンパク質溶液の大希釈により達成される。この希釈操作により、変性剤は変性効果が無くなる程度にまで希釈され、その時点で変性タンパク質は自発的な折れ畳み(フォールディング)を開始する。この手法は「希釈法」と呼ばれ、溶液の希釈操作のみで完了することから、非常に簡便な方法であるが、同時に、いくつかの問題点が存在する。その一つが、希釈操作に伴うリフォールディング反応系の大規模化である。一般に、希釈法において必要とされる希釈倍率は、数十から数百倍であるため、工業的スケールで効率的にリフォールディング操作を行う場合、溶液が莫大な量になる。また、リフォールディング過程において、タンパク質の再凝集が起こる場合があり、高効率のリフォールディング操作が行えない場合がある。タンパク質のフォールディングは、構成アミノ酸によるタンパク質分子内の相互作用に起因するので、タンパク質濃度が高くなると、タンパク質分子間の相互作用が強くなり、本来のフォールディング経路を経ずに、タンパク質同士で凝集沈殿する場合がある。よって、従来の希釈法に変わる高濃度の変性タンパク質を処理し得るリフォールディング法の開発が求められている。
我々はこれまでに、タンパク質リフォールディング媒体として逆ミセルを用いた新しいリフォールディング法について検討を進めてきた(図1。逆ミセルとは、両親媒性物質である界面活性剤ならびに有機溶媒、そして微量の水からなる球状のナノスケール分子集合体である。逆ミセル中には界面活性剤により有機溶媒から保護されたwater poolと呼ばれるナノメートルスケールの内核水相が存在する。この、逆ミセル内水相のサイズはタンパク質一分子の大きさと近似していることから、逆ミセルの内水相に保持されたタンパク質は個々に隔離され、タンパク質同士の再凝集を防ぐことができる。逆ミセル中に可溶化した変性タンパク質は、それぞれ逆ミセル内水相に取り込まれることで、個々に分離した状態となる)。次に、タンパク質中のジスルフィド結合の掛け換えを促進するように、酸化還元剤を溶解した逆ミセルを注入し、タンパク質の再生操作を行う。その後、再生したタンパク質を逆ミセル相から水相へ回収する逆抽出操作を行う。以上のように、逆ミセル法は、「可溶化」「再生」「逆抽出」の3段階からなる手法である。我々は、この手法を用いて、これまでに数種のタンパク質においてリフォールディングが可能であることを示した。
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