図1 溶媒抽出の模式図
注:クロロフォルムを用いた場合
溶媒抽出法

 物質を分離・精製する手段の1つに溶媒抽出法があります。具体的には、互いに混じり合わない二液間における物質の分配を利用した物質の分離・濃縮方法です(図1)。この手法は比較的高濃度の原料液を大量に処理することができ、操作が比較的容易で連続生産が可能であるという利点を有しています。この手法による目的物質の分離性能は抽出剤が大きな影響を及ぼすため、新規抽出剤の開発に関する研究が幅広く行われています。
分子認識化合物

『物質が物質を認識する』という機能は、我々の生体系が行っている基質-酵素反応、抗原-抗体反応、薬物-受容体反応などに見られるように、生命を維持するには必要な化学反応です。これまでこのような高精度の原子・分子認識能は生体系においてのみ可能であり、人工系で再現することは不可能ではないかと考えられてきました。しかしながら、最近の有機合成技術および分子設計技術の進歩、さらには分析機器の進歩にも支援され、生体系と比肩できる高精度認識化合物を人工的に設計・合成することが可能になりつつあり、この『物質が物質を認識する』という化学現象は近年“ホスト-ゲストの化学(包接化合物の化学)”として、急速な進歩を遂げています。
 この代表的なホスト分子として以前から、クラウンエーテルやシクロデキストリンが知られていますが、これらの包接化合物に続く「第三の包接化合物」としてカリックスアレーンと呼ばれる大環状化合物があります。
カリックスアレーンとは?
 カリックスアレーンとは、複数個のフェノール単位をメチレン鎖で結合した環状オリゴマーであり、その名前は分子構造がギリシャ製の聖杯(calix crater)に似ており、芳香環の多核環状体(arene)であることに由来する。 この化合物は

1.空孔径が種々異なる。
2.フェノール性水酸基で構成された空孔を持つ。
3.芳香族で構成された空孔を持つ。
4.フェノール性水酸基は種々の官能基の導入に利用できる。
5.種々の芳香族置換反応により官能基の導入が比較的容易である。
6.構造変化が可能である上、適度にかさ高い官能基を導入することにより、配座異性体として単離することも 可能である。

 といった特徴を有するために、非常に魅力的なホスト分子として注目を浴びてます。この物質を認識する特徴をいかし、当研究室ではカリックスアレーンを新規抽出剤として応用させる研究を行っています。その研究例として、これまで、希土類金属の分離をはじめ、アミノ酸、核酸塩基、さらにはタンパク質の抽出に成功しています(図2、3)。
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図2 カリックスアレーンによるタンパク質認識
図3 カリックスアレーンによる金属イオンの捕捉
カリックスアレーン
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