分子認識化合物
『物質が物質を認識する』という機能は、我々の生体系が行っている基質-酵素反応、抗原-抗体反応、薬物-受容体反応などに見られるように、生命を維持するには必要な化学反応です。これまでこのような高精度の原子・分子認識能は生体系においてのみ可能であり、人工系で再現することは不可能ではないかと考えられてきました。しかしながら、最近の有機合成技術および分子設計技術の進歩、さらには分析機器の進歩にも支援され、生体系と比肩できる高精度認識化合物を人工的に設計・合成することが可能になりつつあり、この『物質が物質を認識する』という化学現象は近年“ホスト-ゲストの化学(包接化合物の化学)”として、急速な進歩を遂げています。
この代表的なホスト分子として以前から、クラウンエーテルやシクロデキストリンが知られていますが、これらの包接化合物に続く「第三の包接化合物」としてカリックスアレーンと呼ばれる大環状化合物があります。
カリックスアレーンとは?
カリックスアレーンとは、複数個のフェノール単位をメチレン鎖で結合した環状オリゴマーであり、その名前は分子構造がギリシャ製の聖杯(calix
crater)に似ており、芳香環の多核環状体(arene)であることに由来する。 この化合物は
1.空孔径が種々異なる。
2.フェノール性水酸基で構成された空孔を持つ。
3.芳香族で構成された空孔を持つ。
4.フェノール性水酸基は種々の官能基の導入に利用できる。
5.種々の芳香族置換反応により官能基の導入が比較的容易である。
6.構造変化が可能である上、適度にかさ高い官能基を導入することにより、配座異性体として単離することも 可能である。
といった特徴を有するために、非常に魅力的なホスト分子として注目を浴びてます。この物質を認識する特徴をいかし、当研究室ではカリックスアレーンを新規抽出剤として応用させる研究を行っています。その研究例として、これまで、希土類金属の分離をはじめ、アミノ酸、核酸塩基、さらにはタンパク質の抽出に成功しています(図2、3)。