酵素の翻訳後修飾機能を利用したタンパク質工学
(トランスグルタミナーゼグループ)
異なる機能を有するタンパク質やペプチドを二つ以上繋げた人工生体分子である機能性融合タンパク質は,タンパク質の分離精製,バイオリアクター,バイオセンサー,免疫測定などの生物化学工学分野で広く利用されている.このような多機能性融合タンパク質は,従来,多官能性試薬を用いた有機化学的連結法,あるいは遺伝子融合など遺伝子工学的手法によって作製されてきた.しかしながら,有機化学的手法においてはタンパク質連結反応の位置特異性が低いために連結部位の制御が困難であり,また,遺伝子工学的手法においては融合タンパク質が正常な立体構造をとらず,活性型融合タンパク質の収率が低いなどの問題点が有った(Figure 1).
まず,TGが認識可能なペプチド,タンパク質をスクリーニングしたところ,リボヌクレアーゼA由来のS-peptideが基質として認識されることが明らかとなった.そこで,遺伝子工学的手法により,緑色蛍光タンパク質(GFP,Figure3)のN末端にS-peptideを含むペプチド配列を付加した組換えGFPを調製し,TG反応に供したところ,GFPの二量体を選択的に与えることが明らかとなった(Figure4 & 5).
では具体的に,S-peptideのどのアミノ酸残基が架橋に関与しているのだろうか? N末端に付加したペプチド中には,グルタミン(Q)残基が1つ,リジン(K)残基が3つ存在する.そこで,まず部位特異的変異導入によりQをAlaに置換したところ,架橋化はまったく進行しなくなったことから,これが本架橋反応における唯一のアシルドナーであることが分かった.活性リジン残基については,S-peptide-GFPをTGによりZ-Gln-Glyでラベル化し,これをペプチドマッピングすることにより同定し,TGに認識されるQ,K残基は共にS-peptide上に存在することを明らかにすることができた(Figure 6).
架橋化の前後でGFPの蛍光強度にほとんど変化が見られないことから,TGを介した酵素的架橋化法が,対象タンパク質の機能に影響を与えずに多機能性融合タンパク質を得る有力な手段となり得ることが示唆された.この結果をもとに,モデルタンパク質の発光色変異体を利用して,架橋化過程を分光学的に直接モニタリングすることを試みた.具体的には,GFPと同じくN末端にS-peptide配列を付加した青色蛍光タンパク質(BFP)を調製し,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)現象を利用することで,架橋化プロセスを蛍光強度変化として読み出すことができた(Figure 7, 赤丸).
S-peptideはリボヌクレアーゼAの一部分で,S-protein(= RNaseA - S-peptide)と強く相互作用することが知られている(Figure 8).そこで,S-proteinにより架橋反応部位(S-peptide)をキャッピングすることで,二量化反応を制御できないかと考えた.現在,二量化の抑制までは成功しており(Figure 7, 青丸),本系をさらに発展させることにより「ペプチド?タンパク質間相互作用を利用したキャッピング・脱キャッピングによる異種タンパク質連結反応の制御」という概念を確立したいと考えている.
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