私たちの班は、両親媒性の分子が自発的に形成するナノスケールの分子集合体に特異的な反応場・分離場を作ることを目指しております。ナノ分子集合体として、逆ミセル、リポソーム、高分子ミセルを用いて研究を行っております。ここでは本研究室で研究の進んでいる逆ミセルについてご紹介します。
(高校生や学部生を対象にしてますので、それ以上の方は読んでも得るものはないかもしれません)
有機溶媒への生体分子の取り込み
溶媒を大きく分けると、水になじみやすい性質のもの(親水性)と水とはなじまない性質(疎水性)のものに分けることができます。通常、有機溶媒と呼ばれるものは水になじみにくく疎水的な性質を持っているものがほとんどです。ですから、有機溶媒には水はほとんど溶解することはできません。
しかしDNAやタンパク質や酵素などの生体分子は親水的な性質があり、ある程度の水が存在しない限り機能を発現することはおろか、溶解することもできません。そのため有機溶媒に生体分子を溶解するには、有機溶媒中にある程度の水が分散していなければなりません。しかし、有機溶媒に単純に水を加えただけでは水と有機相に相分離し、分散は起こりません。
そこで両親媒性物質である界面活性剤を用いるのです。
分子集合体 〜逆ミセル〜
界面活性剤とは、分子内に疎水的な部位と親水的な部位を合わせ持つ構造をしています。(図1)
「両親媒性」とはつまりこの性質を表したものです。
図1 界面活性剤の構造
例えば、水中に界面活性剤を溶解したらどうなるでしょうか?
熱的な原理で、親水性のものは親水性のものと、また疎水性のものは疎水性のものと集合しようとします。
界面活性剤の疎水部は、水とは混ざらないためなるべく水から遠ざかりながら、
疎水的な性質のものと相互作用しようとするでしょう。
そうなると図2に示すように、球状の集合体を作るという風に考えられます。
これがミセル(正ミセル)と呼ばれるもので、分子集合体の一つの形です。
石鹸には界面活性剤が含まれているのですが、石鹸が汚れ(油分)を除去できるのはこのミセルと言う集合体を形成しているからなのです。
図2 正ミセル
では、有機溶媒に界面活性剤を添加したらどうなるでしょう?
勘の良い方でしたら、正ミセルのちょうど逆の構造になり、疎水部が溶媒に突き出した構造になるとわかると思います。(図3)
これが「逆ミセル」と呼ばれる分子集合体です。
逆ミセルの構造を注意して見ると、内部に水を保持する空間があることに気づきます。
先に述べましたように、有機溶媒中に水を分散することは非常に難しいのですが、
この逆ミセルを用いれば簡単に水を分散することができるのです。
また、この水の空間はちょうど生体分子が溶解できるくらいのサイズに調整することができますので、
有機溶媒中に生体分子を溶解することが可能となるのです。
図3 逆ミセル
生体分子を有機溶媒に可溶化するメリット
では、有機溶媒に生体分子を取り込むとどのようなメリットがあるでしょうか。
これまで多く研究されてきた一般的なものとしては、酵素反応とタンパク質抽出分離が挙げられます。
酵素は通常水中で働き、ある決まった形をした分子(一般に基質と言います)にだけ働きかける性質があります。
例えば基質が有機溶媒にしか溶解しないものであれば、酵素を使うことは出来なかったのですが、
逆ミセルを用いれば有機溶媒中においても酵素の力を使うことができるのです。(この辺は酵素班のページを見てください)。 また、抽出分離は界面活性剤とタンパク質の相互作用を利用して目的のタンパク質を選択的に抽出するというものです。
ここで巨視的に見ると、
有機溶媒中に溶けた生体分子は逆ミセルと言うカプセルにそれぞれ閉じ込められた状態になっていることに気づきます。
つまり水中で溶解しているときとはかなり状態に違いがあるのです。
私たちの研究はここに着目しており、通常水系では得られない環境に移すことで、生体分子の挙動の変化を調べています。
また、最近環境への社会的な関心が高まっており、環境に負荷の少ない系を構築することが求められています。そこで有機溶媒に代わる新しい溶媒としてイオン性液体と呼ばれるものがあります。これはイオン性物質でありながら、室温で液体と言う非常に珍しい性質を持っています。私たちはこのイオン性液体中でも効率の良い生体分子の機能発現ができないか研究しております。
細かな研究の点については、鋭意製作中です。
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